2021.11.19

注目のR・サイダー氏の著作、邦訳が出版されました。

イエスは戦争について何を教えたか
暴力の時代に敵を愛するということ
ロナルド・J・サイダー著 御立英史訳 あおぞら書房 2021/5

本書は、意表を突くようなタイトルですが、実際、いま最も必要とされるもの、私たちが求めているものではないでしょうか。
歴史的に非暴力運動や平和活動家に影響与えたイエスの教えと行動。そのイエスは、ローマ帝国の軍事力と一体になった権力による圧政のさなか、同じ民族仲間の訴えで、政治犯のようにしてローマの兵士によって十字架刑に処せられました。
全くの無力、無防備で、裸で、それを受け入れるしかなかったイエス。そのとき、弟子たちに訴え、
「報復せよ、軍事蜂起せよ、テロ攻撃をかけろ」
と言っていません。それが示すイエスの願いは何だったのでしょうか。

歴史的にキリスト教国と見なされる西側諸国は軍事大国。いまも最大の軍事強国であるアメリカは、キリスト教徒が政治的にも、社会倫理的にも大きな影響力が与えています。それを日々報道で知らされています。
そのただ中に住む著者サイダー氏は、本書の発行で、反対勢力から厳しい圧力にさらされるかもしれません。それを承知で、生涯をかけて書き上げただろうことは容易に察しがつきます。
聖書を深く探索し、神学の最新情報をも漏らさないようにし、いま話題のN.T.ライトの研究からも多くを採用し、そこから力を得て、イエスの時代背景、そのなかでのイエスの暴力に対する教えを掘り起こしています。
正義のための戦争を、どう考えたらよいのでしょうか。
どんな議論が歴史的に存在したのでしょうか。
そういった細部のことも本書は追求していきます。

大変重要でありながら、場合によって手つかずで、神学者取り組むことを避けてきたかもしれない課題を、豊富な資料とともに提供している、大変魅力的な書です。